2012年8月17日金曜日

~ながらの危険性

以前からだが、人と会話をしている最中に携帯電話を触りながら会話をする人に、ムッとしたことは誰にでもあるだろう。

最近は、スマートフォンの普及によって更にその姿を目にする事が増えた。
メールのチェックだけでなく、今ではSNSと云ったアプリによって、 『いま』 誰が何をしているのか?を、 『いま』 すぐにチェックしておかなければ何かに着いていけない様な強迫観念に襲われているように感じる。

その姿は、こちらが現実的に目の前で対面し、会話をしているにも関わらず、返事は上の空、そして時折合わせる視線は、端末の内容に気が取られ、会話(対話)に集中出来ていない。
実際に目の前に居る人との関係よりも、ネット上でなされている会話や行為の方が重要なのだろう。
果たして本当に重要なのだろうか。

答えは、 『重要』 なのだ。

何故なら、自分の知らない所で多数の知り合いや、不特定の人間が何を 『いま』 話題にし、次の行動予定を考えているのか解らないことが気になるからなのだ。

『いま』 目の前に居る人は、実際に会話をし、対面しているから何を話し、何を考え、何をしているのか目や耳で確認出来るから安心感がある。

このような心理から、どうしても対面している場面を疎かにしてしまう訳だ。


しかし、人間の脳はそんな簡単に二つの違った作業をするほどうまくは動かない。
全く異なった作業を二つ以上行う脳の事を 『デュアルタスク』 と言う。
そのデュアルタスクは、早々容易く習得出来る能力ではない。
また生まれ持った能力がある人やある種の訓練、そう云った環境の中で育った人以外では、大多数の人がデュアルタスクではなく、シングルタスクという脳機能の仕組みなのだ。

このデュアルタスクを簡略的に説明すると、
例えば、ある本を読んでいる、するとそこへ誰かが部屋に入ってきて何かを話しかけてくる。
本を読みながら、本の内容を理解しつつ、相手の会話に適切に応じ、会話をする。
そして、電話が途中で掛かってきて、口は一つしかないので会話は電話の相手とするのだが、対面している相手にはメモ用紙を使って同時に別々の会話を同時進行する。
その時、本は読み続けたままで、電話の内容を別のメモ用紙に記録し、必要があればスケジュール帳に記入する。
このような行動をする思考を意味する。

一見、誰でも仕事上でこのような忙しい行動をしているように思うだろうが、実は、本当の意味でのデュアルタスクの思考は、同時進行で言動・行動をし、その内容を的確に進め、内容を記憶と理解している点にある。
一連の作業に関連性が全くない状態を前提とするものだ。


『~ながら』 が記憶力向上に繋がると一時期話題になり、受験生のラジオを聴きながら勉強をする方法が実はリラックスした環境によって記憶し易い思考になっていると言われたが、それとデュアルタスクとは全く本質が違う。

最初に挙げた端末を触りながら、会話をするのは人間関係に問題があるのだ。
自分が最も 『いま』 重要視している人間関係の所在がどこにあるのか?なのだが、問題点は心理的に端末の中に重要点を置いている事にある。
端末の操作に気を取られ、その上文字を読み、内容を理解しながら、記憶し、対面する相手との会話にも気を配るなど、出来る筈がないのだ。

この行為の中で、最も良くない行為は、端末を操作するという点にある。
端末の操作だけで、一つの複雑な作業をしていることに気が付いていない。
結局、ネット上での話題も、対面との話題も記憶する能力が失われている。
故に、すべてが上の空になってしまっているのだ。


最近では、自動車の運転中にハンズフリーで電話の会話をしながら運転する姿が多くある。
運転者は、『車の運転』 と云う複雑な作業をしながら、目に見えない相手と会話をし、内容を理解しながら瞬間的な判断力と同時進行で脳を動かさなければならない。
しかし、後で振り返ると、目的地には問題なく到着できたが、通ってきた道の状況を聞いてみると記憶していない事が殆どなのは、公安委員会の調査からも明白になっている。
それくらい、当時自分が何に気を取られ、集中していたのかがはっきり解る。


人間は、視覚や聴覚によって情報を得易い。
最優先して 『いま』 を知るための機能がそれらなのだ。
しかし、目に見えないものを理解し把握しようとする時の集中力は、3倍以上の能力を使用するという。

何でもいますぐ簡単に手に入れようとする考え方や行動は、便利なのではなく、脳にとっては非常に複雑で面倒な作業を強いられ、何倍も不便な行為をしているのだ。
その疲労感は非常に強く、自分自身の自覚しないものであり、症状は頚椎からの疲労感や肩こり、頭痛が多くなるのも納得できる。
機械のように人間の脳は、計算速度は速くはない。
しかし機械よりももっと、高性能なのは、その 『いま』 を把握する速度なのだ。
それは視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚、この五感によって初めて得られるものであって、デュアルタスクが成立するのに最も必要な条件と言っても良いだろう。



端末を触りながら、人と会話をする危険性は、記憶力を更に劣化させるものだと警告したい。