2012年6月7日木曜日

地域医療と医療現場

本日2012年6月7日付けのWeb さいたま新聞の記事
全小児科医が退職の意向 さいたま赤十字病院
http://www.saitama-np.co.jp/news06/07/10.html?utm_medium=twitter&utm_source=twitterfeed


この記事によれば、ハイリクス妊婦の受け入れや高度先進医療が必要な小児が問題となっており、常勤医師が全員退職した内容が書かれているが、その詳細は明かされていない。

しかし、ハイリスク妊婦や生まれてきた乳児を対応する小児科医不足の問題は後を絶たない。
その上、全国的に 『医師不足』 は問題となっている。
果たして、本当に医師はそんなに居ないのだろうか?
国民総人口あたりに対し、一体何人の医師で医療を支えているのだろうか?


私の住む地域は大都市圏であるが、焼く10年以上前に市立市民病院が7箇所あったうち、5箇所が医師不足、経営赤字などを理由に閉鎖された。
残る2箇所でも、同じく医師不足や看護師不足、経営上の問題から、診療科目や入院病棟が一部閉鎖されている。

昔この市民病院は、高度医療の窓口として、町のかかりつけ医と大学病院や専門医とのパイプ役を担っていた。
構図としては、
保健所 → 近所の開業医 → 市民病院 → 大学病院・専門医
と、段階を経て、患者に適切な病院を見つける事が出来ていた。
ところが、この構図は患者の医療負担や検査料、検査による心身的な負担が多いという事やこれがドクター・ショッピングに繋がる弊害になりやすい事が指摘された。

市民病院閉鎖の背景には、開業医から直接(連携医療機関として)大学病院へ紹介されるシステムが構築された事と、看護師の希望勤務病院が勤務条件や給与面で率のより高い私立病院へ就職してしまうところにある。

医師不足とは言うものの、私が命名した 『ホスピタル・ストリート』 という地域が数多く存在する。
そこは、新たな土地開発によって出来た新興住宅街に多く、一般内科、歯科、耳鼻科、眼科、皮膚科、整形外科、そして院外薬局が隣接し、メインストリートの両端に点在している。
この科目は、ほとんどが医学部・薬学部で専攻し多額の大学費用を費やす分野であり、その開業医の経歴の多くが少数の大きな病院での研修期間を修了した後に、現在に至ると云った具合だ。

恐らく、入学した大学病院で教授(医局)での勤務体制や人間関係に労を費やすより、法定で定められた修了期間をクリアし、財力のある人が開業した方が早く、学費の回収に繋がるという理由が見受けられる。
そして、医者はボランティアではなく、病院経営の経営者であり、事業主でもあり、これは立派なビジネスとして成り立っている。
故に、医薬分業となった現在では、大抵開業医の隣に処方箋薬局が隣接しており、医師と薬剤師と製薬会社は連携してビジネスを展開し、その頂点に立つのが院長先生なのだ。

高齢者と小児科児童(0歳~15歳まで)は、病気に罹りやすく、風邪が流行れば抵抗力の少ない年齢層でもあり、患者(お客様)は必ずやってくる。
併せて、予防注射の摂取対象年齢層でもある。
そこから、資力と着眼点の鋭い院長先生は、高齢者介護ビジネスを一つ、また一つと展開し、周辺に開業されている他科開業医に紹介をし、紹介料と診療報酬を得るという需要と供給を展開するのだ。


こうなると、公立の市民病院の存在意義や医師の人気は激減するのも当然だ。
上記の 『ホスピタル・ストリート』 に唯一存在しないのが産科・婦人科であり、開業されている産科・婦人科も今ではハイリスク妊婦の受け入れを公然と断っている。

母子共に健康で生まれてくるのが当たり前ではない時代を物語っている。
原因は一部に、医療機器が高性能になった事によって、胎児検診の時点で高率に問題を発見し易くなった事にある。
早い段階で異常が発見できることは、その後の経過や生んでからの対応の仕方に対して心構えを整えられる利点の方が優位であるにも関わらず、それが故に医師は 『万が一の事態』 命に関わる事に恐れをなしてしまう。

医療事故は、故意に起こす問題も明るみに出ない問題点も確かにあるが、誰もがわざと起こしているのではなく、ほとんどが過失によるものである。
しかし、患者感情としては、故意であれ過失であれ、そんな事よりも一生背負う事に問題がある。
医師は神様ではない。
けれども医師には倫理と照らし合わせ、真摯に対応しなければならず、いかなる間違いも許されないのは、『命』 の裁量を預かる存在である。

産科医の立場になれば、まだ未開の医学である現状で、敢えてハイリスクは負いたくない。
ハイリスクを抱えた患者の立場になれば、それが未開であったとしても藁をもすがらねば、生きてゆけない現状。

その両者の橋渡しをしていくのが、医療コーディネーターの役割であろう。
しかし残念な事に、その医療コーディネーターは病院に雇われた、病院側の人員であって公正中立な立場とは表向きの綺麗事なのが実態である。
両者の事実を知りつつも、病院側に不利益となるような事は患者に伝えられない。
もし、伝えなければならない事態に遭遇した場合は、医師の判断によって医師自身から患者へ伝えることが原則だ。



見えてくる地域医療と医療現場の問題点が、お金であることが分かる。
残念ながら、命=財力であることは紛れもない事実なのだろう。

公立病院が倒産する背景には、私立大学病院の事業拡大、有能で有益な医師の獲得もある。
儲けるため、食べていくため、地位を築くため、それぞれの思惑の中にある医師たち。
果たして、置き去りにされる患者たちは、誠実に、純粋に、命を助けようと思っている医師にどうすれば辿り着き、巡り会えるのだろうか。


すべては、倫理観と価値観に懸かっている。

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