2021年9月11日土曜日

連載『Ego』初回

 序章

それは、人の心をえぐり、暴き出し、思考を破壊する。


悪意のないサイコパス。

どこにでも居るのかもしれない。

どこにでも居る訳じゃないのかもしれない。


何がしたいのだろう?

どうしたいのだろう?

何を問うて、何を聞き出したいのだろう?

何を覗きたいんだ。


メンタリストならまだしもサイキックとなれば、相当な執念で人間の心髄を壊したい衝動が突き動かす原動力だ。


何があった?

目的は何だ?


疑問しか浮かばない。


人々は集う。群がる。熱狂する。そして傷つき、去って行く。

その世界は暗く、不穏な空気が漂い、嫌悪感から始まる。

足を踏み入れた途端から、「何か嫌な予感」がする。

それなのに、そこで立ち止まることは出来ない。


誘導される。

何だろう?と思って居る内に、始まりへと無理やり連れて行かれる。

何の手引きも無く、暴露的に追いやる。

選択肢のない状況で次のステージ、そう”ステージ”へ誘拐される。


いざなわれる ではない。

導かれる でもない。

完全に彼は誘拐した。


そこでは戦いは起きない。

特に何のミッションもない。

課せられている物は、ひとつ。

自我の欲求を追求することだけ。



彼は見せる。

あらゆる出来事の世界を。

観る度に「知りたくない」そう感じさせる。

彼は見せるだけ。


そして感じさせる。

彼は問うて来る。

『どう思う?』

そこでは答えは「まだ分からない」と心の中で答える。


そしてまた彼は問う。

『まだ見たい?まだ知りたい?』

選択肢もなく「イエス」と答えるしかない。

彼は黙る。


何が起きているのか分からないから、嫌な予感がしても知ろうと思うより他ない。


一体、なに?


自分は何をすれば良いんだ?

自分は何処へ行けば良いんだ?

それを可能にするには何を獲得すれば良いんだ?


必然的に考えざるを得なくなる。

その時点で疲弊させられている。

それなのに辞めることは出来ない。


先ず探求心を芽生えさせる。

柔らかい不安感を与えて、もしかしたらこの先には払拭出来る世界があるのかもしれないと思わせて、更に次の世界へと誘拐して行く。


そこへ突如、別の誰かが現れる。

「あ、助かった!」一瞬で頭を過る。

それが誰なのかも、何なのかも、全く所在も得体も知れない相手なのにまるで”救いの神”が現れたような気になる。


彼はそれをただ見ている。


ストックホルム症候群のじょうずな活用を彼はする。


出会った相手は犯人ではない。

けれど彼の描く世界では、その”仲間”は、彼にとって『犯人』なのだ。


さてさて、この”犯人”たちは、これからどのような動きをするだろう?

しめしめ、また蜘蛛の巣に引っ掛かった。

彼はほくそ笑む。


私の考えた通りの行動をするに違いない。

そう彼は確信している。



彼の作ったプログラムの中で唯一与えられている物を発見出来るか?

彼は試している。

彼は『The Kye』と思って居る。

しかし、それは鍵ではない。



つづきはまた。



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