2021年9月14日火曜日

連載『Ego』第6回

静寂

自分よりも先に経験した者が現れる。

同じような者が現れる。


彼のファンが居る事に気付き、ここを踏み越えたらどうなるのか下調べをしてからにしよう。

そう知恵が着いた頃のことだ。


一度は、

「ここまで耐えて登って来たのに何で水の泡にするようなことをしなきゃならないんだ?」

全く理由が分からず引き返す。


人間は”価値”を見出す。


対価と報酬を得るために努力を惜しまない。


腑に落ちないまま立ち竦む時間は、今までのような挑戦者気分では居られず相当納得するまでに掛かる。

いくらでも時間はあるから好きなだけ考えるが良い。

彼は心の中に忍び込んで囁く。



いきなり脅迫される。

ここを過ぎたらすべてを失うが良いか?


良い訳がない


その理由を探すために身近な出会う”仲間”と宛てなく余暇を楽しむかのように、本来やりたいと思って居ることではないのに間を繋ぐ。

それをコミュニケーションと思い込む。

気の合う”仲間”を求めて、来る日も来る日も、取り換え引き換え彷徨い続ける。


そこでは『感情』がそこそこに表される。

それがあたかも本物かのような気にさせられ、差し障りのない『その場』のやり取りが交わされる。

その会話は居合わせる者らに公開されることを初めは知らずに居る。

先に知った者が、辺りを見回し自分たち以外誰も居ない事を確認してから始められる仕組みが、ポイントに設置されている。

大抵の場所に『椅子』が置かれてあり、この誘導は実に巧妙に仕組まれている。


手を差し出されて、払い除けるには理由がある。


椅子を差し出されて、座ろうと思う衝動は、

『休みたい』

『その世界から一旦離れたい』

自分の領域を作り出したい思いから無意識的に起こる。


不思議と何処にでも座ろうと思えば座れるのだが、出来れば椅子の方が良いと無意識的に思うのは文明が発展した恩恵だ。

深層心理では、何者かより一段高い場所=安全優位性であることは立証されている。


常に付き纏う ”優劣” が、この世界では刷り込まれる。

自分は劣等だと何故か感じさせられ、叩き込まれ、この段階まで来ると浸み込まされている。


この椅子の会話を彼は一部始終つぶさに収集していることを”犯人”らは知らない。

自分の発言によって、自分が遮断されはしないだろうか?

”犯人”らは、それだけが心配で気に掛ける。

気遣うのは目の前にいる相手に、ではない。

あくまで心配の中心と興味関心は『自分』だけだ。


何故、彼が会話をつぶさに監視しているのか?

”犯人”の『いま』の心理状態を知るためだ。

会話の内容などに興味はない。

彼もまた興味関心は『個人』に向いているのだ。


この会話に不自然な点や不穏な動き、疑心感などが現れた時にアクションが起きる。

他愛なく楽しそうな会話をして、それがある一定のリビドーの頂点に達した時にもアクションが起きる。

彼の意のままに切り離し、引き合わせる事が可能になって居るのは、これがあるからだ。


人間が使う言葉や言語には一定の法則性と方向性がある。

予測することにスーパーコンピューターは必要ない。

単純明快で、彼の考えた世界で使用する言葉は、脳が単純化させられているから難しくはない。

それが同一言語となれば尚更簡単な訳だ。


「ここだけの話」

が大好きな人間。

隠れてするような会話を誰も見ていないと思い込んでする

「内緒話」

それが大好きな人間。


一通りを曝け出し、彼に暴露したとも知らずすっきりとした気分転換を得て、いよいよ次は最終難関へ挑むぞ!と勇気を湧き上がらせる。


そのための餌だとも知らずに、一時の休息がこれまでの苦痛を和らげる。



恐怖の頂点

自分を動かす手立ても得た、勇気も得た

いよいよ脅迫を覆してやろうと踏み込む。


強烈な怒号と最悪しか待って居ない予測が突きつけられる。

それでも進む。

ゴールかと思うような場所へ彷徨いながら辿り着く。


これまでにない程の褒美が置かれている。

まるでネズミ捕りに掛かったネズミが、次から次に餌を貪るかの如く、餌に掛かる。

辺りは全く見えない閉塞と静寂の中で一息着き、進んでみる。

最終告知の脅迫を突き付けられる。


「もう疲れたから止めようか」

ふと考える。

「次にまた挑戦することも可能だと案内してるぞ?」

ふと損得勘定で計算する。


これまでの苦労を無にしたくない思いと、損をしてでも、またやり直そうと考え直す思いが交錯する。

初めは、

「教訓が一つ得られた」

と思い引き返してしまう。


初めてではないだろうか?

この世界で『教訓』と『案内』が得られたのは。


それでも何の目的で、さらわれた世界で、自分が何をしているのかは何も分からず終い。


もう誰も、何も、

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